1896年4月26日に演奏されたチャイコフスキーについて

ToscaniniがScalaのオーケストラを指揮した演奏会について、
"Toscanini e la Scala"(Edizioni della Scala 1972)と言う本を基にまとめはじめましたが、
その一番最初の演奏会で、気になったことがありましたので以下にまとめます。

この本では演奏会の曲目、共演者についてまとめられています。
この日の演奏会については下記のように記されています。

Domenica 26 aprile 1896 _ 1°Concerto
Haydn, Sinfonia n. 4 in re maggiore; Ciajkovskij, Schiaccianoci: Ouverture-minia-
ture, Danze arabe, Marche-miniature; Wagner, Il crepuscolo degli dei, prologo
(solisti: Gianna Francescatti-Paganini, Elvira Ceresoli, Maria Mori, Giuseppe Bor-
gatti)

ここでチャイコフスキーの曲名で"Marche-miniature"というのが気になりました。
実は「くるみ割り人形」には"Marche"はあっても"Marche-miniature"という曲は含まれていません。
最初は「小序曲」と「行進曲」を混同したのだろうと考えました。

この時に行われた4回分のコンサートのパンフレットが2ページ後に挿入されています。
よく見ると私の最初の考えは違っていて、「小序曲」と「行進曲」を混同したのではなさそうだとなりました。

これによるとチャイコフスキーの3曲のうち最初2曲は"Casse Noisette"(フランス語)と括弧でくくられていますが、
3曲目は別に"(dalla Suite N. 2, Op. 43)"となっています。
調べてみるとチャイコフスキーのOp.43は組曲第1番、その第4曲目に"Marche-miniature"があることがわかりました。
組曲第2番はOp53とまぎらわしいのですが、行進曲にあたるような曲を含んでいません。
またパンフレットでは曲名の下に括弧で囲まれて楽器編成が紹介されています。

(per violini, flauti, ottavino, oboi, clarinetti, triangolo e sistre)

ottavino はピッコロ、sistre は 鉄琴の一種(Rossiniのスコアに見られます)ですから、
組曲第1番の「小行進曲」の編成(picc, fl2, ob2, cl2, triangolo, campanelli, vn2部、ただし全曲div)に一致します。
鉄琴はわずかな出番ですが、後半に演奏されるワーグナーでも使われますので問題はないかと思います。

今のところ私の手許には、この点について実際に演奏会を聴いた人の証言等裏付けとなる資料はありません。
あくまでも限られたものからの推測にすぎず、断定的なことは言えませんが、1896年4月26日Toscaniniは
チャイコフスキーの組曲第1番Op.43の「小行進曲」を指揮したと考えるのが妥当ではないかと判断します。

多くの文献はこの前に行われたTurinのでのコンサートで「くるみ割り人形」が演奏されたと記していまして、
続いてScalaでの4回のコンサートではTurinでの曲に加えて、Haydn, Beethovenなどの作品が演奏されたとしています。
ついでにTurinでは「くるみ割り人形」はどのように演奏されたのだろうかという疑問も生じてきます。
組曲全8曲ではなく、Milan同様の抜粋あるいは全く同じ曲が演奏されたのかもしれません。
この点についても今は手がかりはありません。

ここで、Toscaniniはチャイコフスキーの組曲第1番(あるいはその抜粋)をレパートリーにしていたのでは?
という考えへの反証になりそうな事実もあげておきましょう。
New York Public LibralyはToscaniniが所有していたスコア等を整理して、"The Toscanini Legacy Scores"と
名づけたコレクションにまとめていますが、その中には組曲第1番のスコアはありません。
Harvey Sachs は"Toscanini"の巻末でレパートリーを整理していますが、
"The Nutcracker : Suite No. 1;"とコロンとセミコロンの使い方から解釈すると「くるみ割り人形」組曲第1番という
書き方をしていて、組曲第1番、あるいは第2番を独立したレパートリーとしては挙げていません。
またMarshの"Toscanini and the Art of Orchestral Performance"では巻末のレパートリーの集計でも、
"Nutcracker Ballet : Suite No. 1"という表記が使われています。

最後に「くるみ割り人形」組曲についてですが、通常聴かれる8曲からなるOp.71aを第1番として、
そのほかにOp.71bとして第2番というのもあるようです。Kalmusのスコアのカタログによれば、
1. Chocolate
2. Pas de deux(Dance of the Sugar-plum Fairy)
3. Christmas tree, Children's galop and Entry of the Parents.
と曲数は少ないながら、演奏時間はそこそこの長さになりそうです。

以上BBSでの憲坊法師さんとのやりとりから、まとめてみました。
過去の事実ですから、いつかはなんらかの形で真実が見つけられると思います。

憲坊法師さんには"Toscanini e la Scala"の読解についてヒントをいただいています。
改めて感謝いたします。

2004.02.08  Massa-

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